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2016 Summer

この記事は2016年8月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

プロセスに
変えてはならない
ものなどない。

日下部 淳氏

日下部 淳氏Atsushi Kusakabe

アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)
経理部部長  米国公認会計士、公認内部監査人

1965年、神奈川県生まれ。上智大学経済学部卒業。1987年アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)入社。経理部にて一連の決算業務(代理店手数料業務を含む)を経験。1995年米国本社トレーニー派遣。1997年帰国後より、一貫して経理業務プロセス変革及び会計システム構築に従事。2005年日本社社長付部長。2009年経理部帰任。現在、日米共通システムであるERP COE 日本社責任者として数々のプロジェクトに従事。

経理発で社内イノベーションを巻き起こす

―ご経歴を教えてください。

新卒で入社以来、今年で30年目に入ります。最初は経理部に配属され、決算業務等の経理業務に携わりました。30歳から1年半、トレーニーとして米国本社に出向、レポーティングチームの一員として日本社とのコミュニケーションをサポートしました。帰国後、次世代会計システムの検討を指示され、会計システムだけでなく、新事務プロセス構想プロジェクトといった全社的なシステム構築等に経理の立場から参加するなど、その後、現在に至るまでの20年近くのほとんどを、会計システムの世界に経理の立場から関与してきました。
2005年からの2年半、社長直属のアシスタントに従事し、会社の経営全体を見た後、営業スタッフ部門を経て、経理部に帰任。FP&Aを担当している際に、2010年、日米会計システム統合プロジェクトの話が持ち上がり、日本側の責任者に。導入後は、日本社経理部の中にERP COEチームを組成し、IT部門のメンバーも含めてバーチャルに、米国本社USERP COEチームと協業する形で現在に至っています。
同じ会社に在籍してはいますが、長きにわたりプロジェクトベースで仕事をしてきました。プロジェクトを立ち上げては、稼働させ、定着するまでしばらくの間、そのライン長として従事、また次のプロジェクトに移る。自分で企画するので次々やるべきことができてくる。こうした社内コンサルタント的な活動で、社内イノベーションを起こしてきたと自負しています。

“個”へのリスペクトと”再チャレンジ”できる風土

―発想力豊かな強い組織になるために必要なことは?

“個”に対するリスペクトでしょうか。日本は「違い」を前提にしくみができていません。「みな一緒」という発想から始まっています。戦後世界的競争力を育んだのも、いま競争力を失っているのもそのしくみのせいであろうと私は推察しています。だから変わらなければならない。実際にしくみとして個に焦点を当てる。例えば、個人と会社の目的が合致し、有機的に結合しあうしくみをつくる。”個”へのリスペクトをもって個の力を組織の力に変えていく。一人ひとりが”違う”ことを前提とした、社会のしくみができるとよいと思います。

―印象に残る出来事は?

多くの上司や先輩、後輩達に恵まれ、自由にやらせてもらってきました。中でも、一度とん挫したERPによる会計システム導入プロジェクトに、再度、挑戦させてもらったことは大きかったと思います。成功に導けなかったにもかかわらず、同じ上司からもう一度指示された時には、「絶対に失敗できない。何が何でもやり切るぞ!」という気持ちになりました。この再挑戦のチャンスがなければ今の私はなかったし、成長の大きな切っ掛けになったと思います。だからこそ、そんなチャレンジできる環境を後輩達に用意してあげたい。それが今の私の務めだと思っています。

“What”は変えず”How”を変える

―これからの人材に大事なことは何でしょうか。

新人たちには、次の三つのメッセージを伝えています。
一つ目は、「将来像をイメージしてほしい」。自分がイメージできないことは具現化できません。漠然とでもいいから「なりたい姿」を描くことが達成への第一歩だと伝えています。
二つ目は、「どうやればできるかを考えてほしい」。日本人は制約事項の中で物事を進化させることに関してはとても優秀です。一方、制約事項のない真っ白な状態から何かを描いていくことは苦手。困難な経営課題に向き合った時、思考停止に陥り「それはできません」と真っ先にできない理由を考え始めるのです。「制約事項は置いておいて、どうやればできるかを聞かせてほしい」と繰り返し伝えます。
最後は、「現状維持は退化と同じ」ということです。私たちが置かれている状況は下りのエスカレーターに上を向いて乗っているのと同じ状況です。上に昇り続けない限り、エスカレーターは下がっていく。つまり、世の中が変わっていく中で、自分が進化して変わっていかなければどんどん退化するということです。
経理・財務の観点から言っても業務プロセスで変えられないものはないと私は思っています。法定要件、内部統制要件、環境的制約要件から業務プロセスはデザインされていますが、環境的制約要件等は常に変化し得るので、プロセスも常に変えるべきです。内部統制目的を果たしているのであれば、統制活動はより適切なものに変えてよいはずです。極端な話、法定要件であっても、世の中のためになっていなければ変えるように働きかけることもできるはずです。

―変えてはいけないものは?

プロセスに変えてはいけないものはありませんが、哲学は変えてはいけないものだと思います。保険会社として保険が”誰のためのしくみなのか”を考えれば、当然、契約者、被保険者の人たちにとって役立つ保険でなければなりません。そうした根源的な部分は変えてはいけないものだと言えます。つまり、”What”は変えず、”How”を変えていく。それが重要なことだと思います。
これからも、「クールヘッド&ウォームハート」を変わらず持ち続けながら、よりポジティブな力が発揮できるしくみづくりにフォーカスしていきたいと思います。

―本日はありがとうございました。

*ERP: Enterprise Resource Planning
*COE: Center of Excellence