トピックス

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2017 Winter

この記事は2017年2月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

変化の先を見据え、
考え、
行動せよ。

脇 一郎

脇 一郎Ichiro Waki

JBAグループCEO
公認会計士

1993 年早稲田大学商学部卒業、中央監査法人国際部入所。欧州系外資系企業ファイナンシャルコントローラー、米系外資系企業(NASDAQ 上場)ビジネスアナリスト、外資系ソフトウェア会社代表取締等を経て、06 年ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にマネージングディレクターとして参画。内部統制関連・IFRS 対応コンサルティング、経営管理体制構築支援などを担当。16 年JBA グループ代表に就任。公認会計士、早稲田大学会計大学院非常勤講師。

5%の例外を残すことの大切さ

―今、AIを使った会計ソフトが注目を集めるなど経理財務の世界でも大きな変化が起こっています。

かつてFAXはビジネスの必需品でしたが、今ではほとんど使われず、PDFによるやり取りが一般的です。FAXからPDFへの移行に要した時間は約10年。こうした変化は、ほぼ5年サイクルでやってきますから、5年後は会計の世界ももっと進み、経理財務の仕事も大きく変わるでしょう。すでに変化は始まっていますが、紙がなくなる方向に急速に進み、領収書や請求書もデータのやり取りになる。この変化を許容することが重要だと思います。

―気を付けるべき点は?

日本では、「100%近い業務をカバーできなければシステムを入れても意味がない」という現場の根強い考え方があります。しかし、システムだけではどうやっても100%カバーすることはできません。また、もしカバーしたとしても業務プロセスの変更のたびにシステムも変更することは非効率です。
そこで標準と例外という考え方をする必要があります。例えば、95%を標準としてシステムでカバーし、残りの5%は少し面倒だけど例外として手作業で行う。つまり5%のイレギュラーを残して、95%を標準化する、という考え方が極めて重要なのです。これはコンプライアンスの観点からも効果的です。

例外部分への注力でガバナンスが効いてくる

―95%の標準化が進めば一挙に変わるかもしれませんね。

そう思います。例えば、「都度払い」というプロセスが会社の中ではあります。日本の会社は、この「都度払い」を標準化しようとします。しかし、この例外部分はマニュアル(例えば紙で承認をするなど)でいいんです。紙の請求書が回ってきて、「明日までに支払いたい」と言われれば、上長は「なぜ、そんなに緊急なのですか?」と尋ねるでしょう。それがガバナンスになっていく。システムに乗らないことで例外に注意が向き、リスクマネジメントが効くわけです。
標準化されたシステム以外の部分に注力して、リスクマネジメントをかけ、コンプライアンス、ガバナンスを強化する。それが、経理部門の役割になっていくのです。マニュアル部分でリスク管理をし、実質的なコンプライアンス効果を発揮できれば、会社としても非常に価値があります。このように、「自分が会社に対して何を貢献できるのか」を突き詰めて考えていくことが大事です。

変化の在りようを考えチャレンジし続ける

―AIで自動化が進めば、5%のマニュアル部分がまさに経理財務パーソンの仕事になるわけですね。

そうです。そういう意味では、例外の割合はAIの出現で圧倒的に減らすことはできます。ただ、ビジネスは常に変化し、全てを標準化することは難しい。もっと言えばある程度の柔軟性をプロセスに持っていなければ、会社自身が変化に対応できなくなることもあります。経理財務パーソンには、効率的かつ効果的なプロセスを構築する能力が必要になるでしょう。そのためには、もっとITを知らなければなりません。プロセスやオペレーションを構築するとき、標準化で効率を高め、例外処理によりコンプライアンスを効かせ、経営管理や管理会計で常にビジネスをよりよくする手だてを考える。単に右から左へ処理するだけではなく、企業が価値を見いだし、生き残っていくのはそういう人材です。すでにそんな時代になってきていると感じています。

―トップとして社員の方々に求めるものでもありますか。

そうですね。企業のインフラはどんどん変わるはずですから、我々は会計・税務のプロ集団として、クライアントに将来性のあるソリューションを提供できる組織にならなければと思っています。

―会計コンサルの仕事の中でも特に変化が考えられるのは?

AIやクラウドシステムが台頭する中で、リスクだと考えているのが、記帳代行やアウトソーシングです。スキャニングによって一瞬にして入力できれば入力代行は不要です。さらに取引の電子データ化が進めば、電子データ取引でお互いのシステムに取り込むことができる。そうなるとスキャニングも必要ない。入力作業は確実に激減します。その替わり、データ連携やスキャンニング精度向上のためのサポート、入力されたデータの正確性、妥当性、網羅性のチェック、これによる業務プロセス構築支援など、業務内容がかなり変化する可能性が高いと考えています。
今現在行っていることがこの先も続く保証はありません。むしろ変わっていくのが常態と考えるべきです。そのうえで将来を見据えて、変化の在りようを常に考えることが求められます。あるアンケートで10年以内になくなる仕事の上位に会計事務員が入っていました。経理財務パーソンはこの現実を受け止める必要があります。 AIは人間では考えられない速度で学習し、進化するでしょう。後は、人間がそれを許容するかどうかです。そうした方向に進む腹積もりは絶対に必要です。

―最後にAI時代を生き抜く経理財務パーソンに、メッセージをお願いします。

AIが身近になっていることを我々は生活の中で実感しています。これだけ猛スピードで動いている流れが、後戻りをすることはないでしょう。将来を見据えて、新しいやり方を見つけなければならないし、そうしたチャレンジができなければ、キャリアとしてもスキルセットとしても、瞬く間に陳腐化していきます。
いつの時代でも変化を先取りするのは若者です。若い世代は、この変化を大きなチャンスととらえることもできます。20代、30代の若い方々には、「今できうることは何なのか」を本気で考えて、行動していただきたいと思います。そして、私のような40代後半以降の世代は「逃げ切れる」ではなく(笑)、この変化を理解し若手と共にプロセスを変革していく覚悟を持ってほしいと思います。

―本日はありがとうございました。