西田圭一氏Keiichi Nishida
KDDI株式会社財務・経理部長
1966年生まれ、熊谷市出身。84年金沢泉丘高校卒業。88年中央大学法学部卒業。同年国際電信電話株式会社入社。営業本部を経て、2000年KDDI株式会社経営管理本部財務・経理部課長、11年ジャパンケーブルネット株式会社CFO、14年KDDI株式会社副社長付上席補佐、15年同経営管理本部財務・経理部長、現在に至る。
RPAは働き方改革の時代の申し子
―RPAを取り入れた業務改革が進行中ですね。
1年前からシステム刷新を視野に入れた財務・経理の抜本的な業務改革プロジェクト(プロジェクト:To-Be)に取り組んでいます。現状を見つめなおし、あるべき姿(To-Be)に変えていこうというプロジェクトです。現状、システム改修の必要性は認識していても、つい人手でカバーし手作業が増えていくという状況があります。これは、全国の財務経理パーソンが抱える共通の悩みでしょう。「このままでいいわけがない!」ということで、ERPへのシステム変更と同時に、根本的に仕事を再定義して、定型業務は標準化、自動化していくことになりました。
業務改革プロジェクトを進めるにあたって、先進企業の勉強をさせていただく機会が増えるにつれて、しばしば「ロボティクス」や「RPA(RoboticProcess Automation)」という言葉を耳にし、調べてみると「こんなに面白いものがあるのか!」と思いました。
今回導入したRPAは一般の財務経理部員が使いこなしながら、業務を変え、自分の考え方を変えていくという狙いもあります。各人が個別に職人のように行っている作業をロボにコピーしてもらう。コピーするときのUIがわかりやすく、プログラム言語を打ち込む必要もありません。2〜3時間仕組みを勉強するだけで、若い人たちは使いこなし始めます。コストも低く、極めて投資対効果が高い。
例えば、トライアルの中で実際に業務をロボ化した例の一つに海外子会社への送金の業務プロセスがあります。申請が出て審査から伝票起票まで、いくつもの工数がかかり非常に煩雑でした。審査業務の中の資料準備だけを取り出してみても、システムへのログイン→ウェブ画面保存→添付ファイル保存→一式印刷という工程が必要です。トライアルでRPAを導入して3カ月、すでに資料準備の工程はロボで行っています。
―業務改革の中での大きな成果と言えそうですね。
ERPにより業務プロセスをどれだけ標準化しても、最後に人間に頼る部分、いちばん面倒なところをRPAは休むことなく高速でやってくれますから、相当に時間が短縮できます。まさに働き方改革の時代の申し子になってくると思います。
業務改革プロジェクトの中で、財務・経理部80名全員が1年がかりで全業務プロセスを洗い出し、フローチャートに書き出しました。通常業務に加えての取り組みだったので本当に辛かったけれども、これがとてもよかった。RPAプロジェクトの開始時も、見える化できているのでロボ化できる部分がイメージしやすかった。ふだん自分の業務をロジカルに考える機会はあまりありません。日々の業務を正確にこなしているけれども、目的や必要性にまでにはなかなか考えが至らない。ロボ化するときは必ず、「なぜこの作業がここで必要なのか」という問いにぶつかります。研修の座学ではなく、日常の仕事の中でメンバー全員が、業務の目的を考え始める。実際、部員の仕事のやり方が変わってきました。これは面白い現象です。
―RPAプロジェクトの課題は?
人間が1時間かかる作業をロボットは1、2分で行います。基幹系システムに猛スピードでアクセスし始め、メインシステムが耐えられなくなったり、異常を検知して問い合わせがくることもあります。そのあたりが新しい課題になると思います。情報システム部門が従来型の大掛かりな全社システムを構築する一方で、現場が最新のテクノロジーを使い始めています。外に目を向けると、戦略部門と財務部門とシステム部門をCFOやCTOが束ねる等、組織をトランスフォーメーションする企業が増えています。
多様な人財、多様な役割
―人財の在り方も変わる?
今回の業務改革で、財務・経理部の業務量の10〜20%程度は削減できると目論んでいます。その分、事業部門の支援や子会社CFOの派遣等の高付加価値業務へのシフトが加速できます。人財の多様化も進んでいます。中途採用者や技術系の人財も増えてきました。経理部門初の女性グループリーダーも誕生しました。必要なスキルも変わってきており、簿記やTOEICに加えて、IT系資格取得に全員がチャレンジしています。
―これからのあるべき人財像は?
「財務経理の境界を超えて変化に柔軟にあるべし」と部内では話しています。領域外の世界につながろうとすると様々な困難にぶつかりますがポジティブにいこう。多様な人財を率いてともに成果を出せる人になりましょう、と。
一方で、財務経理のタレントマネジメントでは、①専門分野のプロ(2割)、②CFO候補(1割)、③実務のプロ(5割)、④事業部支援のプロ(2割)というあるべきポートフォリオを明確化しました。現状、財務・経理部80名のほとんどは実務のプロであり、このままステイしたい人もいます。私はその意思は「イエス」で受けとめます。理想論はさまざまあるでしょうが、経理パーソンには、実務を起点に各人が自分の道を決めてもらいたい。人それぞれの役割があることを見せながら、経理人財を育てていくことができればと思っています。
―理想の財務経理部門とは?
テクノロジーの進化により、財務経理の仕事は再定義しなければならない時期に差し掛かっています。ビジネスが動き出す前から関与していくことが必要となるでしょう。常に先を見据えて事業の最前線に我々のリソースをシフトしつつ、財務諸表を大事にすることを忘れてはなりません。経営は、期間の損益(PL)を中心に事業をドライブしますが、財務経理部門としてはそこにBS視点を重ね合わせて課題の本質を描き出すことで経営に貢献したい。会社の在り方はバランスシートにあらわれます。10年先のBSやCFがつくれれば最高です。
―本日はありがとうございました。