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2020 Autumn

この記事は2020年11月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

会計人材が課題解決のリーダーになるために
データサイエンティストとしての会計人材

小澤圭都

小澤圭都Keito Ozawa

ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社
スーパーバイザー 公認会計士

2014年有限責任監査法人トーマツに入所し、外資系金融機関の監査業務と金融商品評価の内部専門家業務・コンサルティング業務に従事。2016年よりジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にて、米国基準決算支援、ITツールを活用した業務改善などの会計コンサルティング業務に従事。

データサイエンスの時代が到来しています。ディープラーニングを筆頭として巻き起こった第3次AIブームの中で、データによってビジネス課題を解決する機運が高まっており、企業が持つビッグデータは重要な経営資源として認識されつつあります。データサイエンスとは、こうしたデータに対して、統計学などの数学を基礎とした分析手法を適用し、ITツールを利用しながら、ビジネス上のインサイトを得るプロセスです。
本稿ではデータサイエンスの実践において意識すべき3つの要素について解説します。そして、データサイエンスの実践者として、会計人材が高いポテンシャルを持っていることについて説明します。

データサイエンスの3つの要素

データサイエンスの実践者をデータサイエンティストと呼びます。一般社団法人データサイエンティスト協会はデータサイエンティストに必要なスキルセットを3つに大別しています。1つ目はデータサイエンス力、2つ目はデータエンジニアリング力、3つ目はビジネス力です。
本稿ではこれらをもう少し噛み砕いて、数学・IT・ビジネスの3つをデータサイエンスの要素と定義しましょう。データサイエンスとしてビジネス課題を解決するためには、これら3要素をバランスよく組み合わせ、実践することが必要です。

図表1

要素1 数学が正しさを教えてくれる

データサイエンスの1つ目の要素が数学です。データを分析し、ビジネス上のインサイトを得るためには、データの傾向や構造を把握する必要があります。そこで重要となるのが統計学をはじめとする数学の知識です。統計学は、ランダムに得られるデータがどのようなメカニズムに従っているのか、その確率論的な情報を教えてくれます。
VUCA(Volatility・変動性、Uncertainty・不確実性、Complexity・複雑性、Ambiguity・曖昧性)の時代と呼ばれる現代において、統計学はビジネスにおける重要性を増し続けています。また、ディープラーニングなどの機械学習を理解するうえでも、微積分学や線形代数学といった大学レベルの数学は必須となっています。
数学を学ぶことは、データサイエンスの「使いどころ」を知るうえで大変重要です。どういった手法がどういう条件の時に利用でき、またどういったケースで適用してはいけないのか、データサイエンスを正しく扱う条件を理解することにつながります。
最先端の分析手法が実装された高度なツールが使える環境であっても、前提を満たしていない場合に適用すれば、誤った結論を導きます。「数学は理系の学問」と思わず、ビジネス課題に対処するためのリテラシーとして親しむことが重要です。

要素2 ITツールが武器になる

データサイエンスの2つ目の要素がITです。データサイエンスにおいては、データの分析や可視化を簡略化し、ビジネス上の意思決定に繋げることを目的としたBI(Business Intelligence)と呼ばれるツールが利用されることも多くあります。Excelを使ったデータ分析も立派なITスキルです。最近ではPython(パイソン)やR(アール)といったプログラミング言語を用いて、自分たちのニーズに合ったツールを自作するケースも少なくないでしょう。
データサイエンスにおいて利用可能なITツールは様々ですが、自社の環境にあった手法を選び取れるかが重要です。高度なツールを使わずに、Excelの使い方を周知徹底することで、データ経営を達成した会社もあります。BIツールを導入することが目的化している例もあるようですが、ITツールの選定はあくまで、ビジネス課題の解決手段にすぎないのだということを忘れてはいけません。

要素3 ビジネスの視点が明暗を分ける

データサイエンスの3つ目の要素がビジネスの視点です。ビジネスの視点は、自社がどのような課題を持っているかを把握し、それを解決する適切な分析手法を選定して、分析結果を組織の意思決定に反映する際に求められます。前述の2つの要素である数学とITは、良質なテキストが多数出版されており、体系的に学ぶことが可能です。
しかし、課題発見や意思決定など、ビジネスの視点を養うための教材は、少ないと言わざるを得ません。企業が直面する課題は多様であり、それらに対してデータサイエンスがどう立ち向かえるか、そうした判断は実践を通じて学びとるのが一番の近道です。
組織における問題意識を汲み取って、データサイエンスで対処可能な状態に落とし込み、実際に組織を変える推進力にする。これが出来て初めて、データサイエンスはビジネス上の価値を発揮します。

会計人材のポテンシャル

経理や財務を担う会計人材は、組織の課題を認識しやすい立場にいます。なぜなら、会計人材は日々の業務の中で組織の状態を会計数値として把握できる立場におり、会計数値には組織の課題が反映されるからです。
ここで、会計数値とは、財務会計に関する情報(仕訳帳や勘定明細など)のみならず、取引情報や顧客情報といった管理会計に関する情報(ビジネスデータ)も含みます。会計数値に表れる組織の課題を察知し、それに関連する詳細なビジネスデータを分析することができれば、課題解決の糸口がつかめます。会計人材が数学とITのスキルを身につければ、課題発見能力を発揮し、それを解決する洞察をデータサイエンスにより得ることが可能になります。
いきなりPythonで機械学習のプログラミングをやれと言っても難しいでしょうから、まずはExcelを使って自部署の経費の推移を可視化してみたり、回帰分析によって業務効率と残業時間の関係を調べてみるなど、身近な例から始めてみるのがよいでしょう。
会計人材が持つポテンシャルを信じて、数学とITスキルの向上を推し進めてみてください。

図表2