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2021 November

この記事は2021年11月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

輝き続ける自分でいるために。

伊藤勝幸氏

伊藤勝幸氏Katsuyuki Ito

米国公認会計士・公認内部監査人/東洋大学非常勤講師/株式会社GALA代表

1979年生まれ。大学卒業後、米国シアトルの印刷物製造業に勤務。日本に帰国後、2006年よりPwC あらた有限責任監査法人にて、金融機関に対する会計監査、自己資本比率規制監査、IFRS コンバージェンスアドバイザリー業務等を行う。2010年より、㈱アビタスで、USCPA講座、CIA講座、IFRS講座担当。事業会社におけるコンサルティング業務や多くの企業研修も実施している。2021年、株式会社GALA設立(gala-edu.net)。著書に『50の英単語で英文決算書を読みこなす』(共著、中央経済社刊)。YouTube: GALAちゃんねる運営。

「人生を変えたい」と思ったとき

―ご経歴を教えてください。

大学卒業後、IBP(International Business Profession)というプロブラムに1年間参加しました。シアトルのBellevue College で学びながら、最後の数か月間はインターンシップとして働くプログラムです。学生の頃から英語を身に付けたいと思い、短期留学を何度か経験しましたが、物足りなく感じたのがIBPプログラム参加の理由です。プログラム終了後、インターンシップで働いた印刷会社で働けないか交渉したところ、幸いにもビザのサポートをしてくれることになり、さらに2年米国に滞在しながら働くことにしました。
2年印刷会社で働いたら家族の事情で帰国すると決めていましたが、帰国後何をするかを考えたとき、自分が何をしたいかがわからなかった。どんな仕事がしたいのかわからなかった。先が見えなかった私は3カ月間、本気で自己分析をしました。結果、一つだけ分かったことは「自分は何もやり切った経験がない、逃げてばかりの達成経験を味わったことが無い人間」ということでした。当時24歳でしたが、「達成経験のないまま30歳になってはまずい。どうしても人生変えたい」と思った時、たまたま出会ったのがUSCPA(米国公認会計士)でした。米国で営業と経理の仕事をしながら、USCPAの勉強を始めました。
06年に帰国したとき、幸いにもあらた監査法人立上げの時期で大量募集していました。志望理由に、「私は人生を変えるためにUSCPAを目指しています。まだ1科目合格ですが、海外での営業経験など人と異なる経験をしてきたので、どうか私を試して下さい」と書いて提出したら、面接に呼ばれ採用が決まりました。応募者のほとんどが中央青山の会計士たちであったことを、後から知りました。

―監査法人はいかがでしたか。

はじめの2年は新鮮なことが様々あり勉強になりました。3年目、20代後半に入って、「仕事は強みを活かしてやるものだ」と考えるようになりました。人生を変えるためにCPAをとり、憧れでビッグ4と呼ばれる監査法人に入ったけれども、2年経過して結果を出せていない。分析力や監査力に富んだ優秀な人が、周りにはたくさんいました。その中で、「自分が輝けない」という半分諦めにも似た感情がわいてきてしまい、モチベーションが落ちてしまったのです。

―自分が輝くために選んだ道は?

当時読んでいた本の中に書かれていた「スピーチの天才になれ!」という言葉が飛び込んできて、「これだ!」と直感的に思いました。子供の頃から人前で話すことが大好きだったのです。当時、副業として週一日3時間ほどUSCPAの講師の仕事をしていました。メンターとも呼べる人から、「死に物狂いでなく、労せずにできる仕事が伊藤君の仕事。今すぐできてお金を頂ける仕事は何か?」という問いかけを受け、「講師です。そしてナンバー1講師になります!」と決意し講師業に専念。おかげさまで決意は現実のものとなりました。
18年からは東洋大学でも英語で国際会計を教え始めました。今年(21年)は株式会社GALAを設立し、40代の夢に向かって動き始めております。

継続的な学習でブラッシュアップし続ける

―コロナ禍での資格取得者のトレンドをどう感じられていますか。

私が講師を務めているCPA、CIAの講座では、昨年(20年)の5月、6月に一気に受講生が増加しました。キャリアアップのため、自らの価値向上、不確実な社会へ備えようとする人が増えたと言えるでしょう。オンライン化も受講に拍車をかけたようです。

―伊藤先生の教える極意は?

一つにはオーバーリアクションやボディランゲージ、音楽といったエンターテインメント性の重視があります。まずは、聞いてもらわなければなりませんから。もう一つは、教える相手の気持ちに立つことです。そのために受講生の通る道を必ず自分も通ってみます。受講生が解く問題を解き、読むテキストを読みます。自分の経験から学習中つまずいた箇所を話すと、大変喜ばれます。これはOJTなどでも 言えることかもしれません。

―これからの経理財務の人財力とは何でしょうか?

私は三つあると思います。一つは「トレンドキャッチ力」です。例えば、会計基準の変更への対応は、経理財務としては欠かせません。加えて、企業価値の付きやすいビジネストレンドのアンテナも高くしておく。テック系やSaaS系のビジネスは、企業価値評価のマルチブルで相当な倍率がつきます。そうした情報提供は経営者に大変喜ばれます。また数年前までは、ROE経営一色だったのが、今ではESG、SDGs経営が席巻しています。こうしたトレンドをいち早くつかむのも、経理財務パーソンに求められる「トレンドキャッチ力」だと思います。
二つ目は「デシジョンサポート力」です。経営陣は数字を見て判断します。スピーディでわかりやすい分析数字と予測数字の提供は、経営の意思決定に欠かせません。
三つ目は「外部人脈力」です。数字を提供するとき、外部のアドバイザー等を活用することも少なくありません。例えば、ストックオプションにおける株価算定、M&Aの際のPPA(取得原価配分)プロセスにおける無形資産算定やデューデリジェンス、金融機関対応など、日頃からの社外の人脈作りを行っておくことが、情報収集も含めて大いに役立ちます。
こうした力を蓄えるには、継続的な学習が必要です。本を読む、資格を取る、講演会に参加するなどして勉強する中で培われてくると思います。

―経理財務パーソンへメッセージをお願いします。

一時、経理財務の仕事がAIに取って代わると騒がれたことがありましたが、無くなるのはこれまで経理財務を悩ませてきた煩雑な単純作業です。経営の意思決定を行うのも、それをサポートするのも人間です。企業価値や事業価値等の算出にあたって、あるべき数値を判断するのも人間です。単純作業がなくなって経営のサポートが増えていけば、経理財務の重要性はますます大きくなるでしょう。
私はいつも「なんのために?」を、意思決定の中心に据えてきました。モチベーションの維持に必要だからです。会社も人も「なんのために?」という目的があるから、輝きながら存在できる。一人ひとり輝ける組織であり人であってほしいと思います

―本日はありがとうございました。