玉虫智行氏Tomoyuki Tamamushi
株式会社VRPパートナーズ ディレクター
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大学卒業後、管理部門職種に特化した人材紹介会社へ入社。中長期にわたる候補者のキャリアプラン形成の相談を得意とし、転職支援時に限らず長期的にお付き合いしている候補者が大半。人材サイド・企業サイド両面からのアプローチによるマッチング精度の高さは、数多くの顧客から定評を頂いている。
中津留弘騎Hiroki Nakatsuru
JBAHRソリューション株式会社 マネージャー ***** 大学卒業後、USCPAやCIA等の国際資格を扱う専門校で社会人のスキル・キャリアアップ支援に従事。その後フリーランスを経て2015年に現職へ参画。会計領域を軸に監査法人や税理士法人、コンサル、管理部門への転職支援に従事。
聞き手:織茂敬俊、ジャパンビジネス・アシュアランス株式会社 ディレクター
独立系会計コンサルティング会社の求人を数多く手掛ける株式会社VRPパートナーズの玉虫智行氏と大手コンサルティング会社から事業会社などの求人を幅広く取り扱うJBA HRソリューション株式会社の中津留弘騎をゲストに迎え、公認会計士の転職市況や転職活動状況など、「公認会計士転職のいま」を対談形式で前後編に分けて深堀。 ライブコメントに寄せられた視聴者からの質問にお答えする、Q&Aセッションは次回後編で掲載予定です。
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-織茂 本日は公認会計士の転職を数多く手がける2人の転職エージェントをゲストにお迎えして、「公認会計士転職のいま」を掘り下げていきます。 まずは、いまのお仕事について簡単に教えてください。それでは、株式会社VRPパートナーズ、ディレクターの玉虫智行さんからよろしくお願いいたします。
-玉虫 会計士、税理士、そしてアクチュアリーといった職種の方たちの転職支援をさせていただいています。クライアント企業はアクチュアリー向けには保険会社系やコンサルティング会社など、会計士・税理士の方々には、監査法人・会計コンサル会社・税理士法人等のプロフェショナルファームが多く、独立系の中堅中小の会計コンサルティング会社や税理士法人が中心です。
-織茂 玉虫さんには、得意分野である独立系コンサルティング会社への転職を中心にお話を伺えればと思います。 続いて、JBAHRソリューション株式会社、マネージャーの中津留弘騎さん、お願いします。
-中津留 弊社はJBAグループの人財部門で、正社員の人材紹介を中心としながらも、人材派遣やフリーランスの方向けにプロジェクトベースでの業務委託案件のご紹介等も手掛けています。働き方や価値観の多様化に伴い、一人ひとりにあったご提案ができるような支援に務めています。クライアントは大手の事業会社、IPOを目指すベンチャー企業、大手コンサルティングファーム、監査法人など広くご支援させていただいています。
-織茂 中津留さんには事業会社への転職を中心にお話を伺います。
活況を呈する公認会計士転職市場
-織茂 それでは「公認会計士転職市場の現状」から見ていきます。 まず、組織内会計士ネットワーク正会員数の変化を見ると、2015年(1109名)から2020年(2139名)の5年間で1000名強増加しています。登録されていない会計士の方もたくさんいらっしゃいますから、一つの目安として増加傾向を見ることができます。ちなみに日本の公認会計士数は、2020年現在会員・準会員数は約4万人です(図表①参照)。
次に組織内会計士ネットワークが会員に向けて年に1回実施しているアンケート結果を見てみます。満足度調査で業務内容とワークライフバランスについて聞いています。2020年9月(回答者数561名)のアンケートでは、業務内容について監査法人経由で転職した人は65%と半数以上が満足しており、ワークライフバランスは75%が満足しています(図表②参照)。
玉虫さん、最近の傾向として、ワークライフバランスを重視して転職しているということなのでしょうか。
-玉虫 在職中の方から相談を受けることが多いのですが、「忙しすぎる」という人が多いので納得の数字だと思います。
-織茂 次に報酬と待遇の満足度を見てみます。報酬に関しては約半数の方が満足しており、満足してないと答えた方は20%程度でした。待遇について「会計士だから優遇されているわけではない」と感じている人が7割近くいらっしゃいます。 このアンケート結果を下地にして、「転職市場」についてお伺いします。いまの転職市場をどう感じていらっしゃいますか(図表③参照)。
-玉虫 活況を呈しています。完全に求職者側の売り手市場で、転職を考えている方は転職しやすい時期にあります。これはいまに限る話ではなくて、独立系コンサルティングファームの求人増は数年来続いており、仕事はたくさんあるということだと思います。
-中津留 求人数については玉虫さんがおっしゃる通りだと、私も強く感じています。 一方で、求職者側である会計士の方々観点で申し上げると、キャリアをどう考えるか等、価値観の多様化が広がっている印象を強く持ちます。 安定を求めて大手企業を希望する方、裁量や成長面でベンチャーを希望する方、年収よりも働き方を大事にされる方、事業の社会貢献度を重視される方など、まさに千差万別です。働き方もフルタイムではなく、時短勤務やフリーランスなどさまざまです。会計士の方が活躍される業界・職種も広がっており、キャリアの選択肢も多岐に渡っていると思います。
コロナ禍は転職事情にどう変化を与えたか
-織茂 コロナ禍前後で感じられる変化はありますか。
-中津留 コロナ当初は採用を控える企業が多かったですが、今は当時以上の勢いが戻ってきています。 求職者の観点からは、リモート勤務が定着したため、特にそうした働き方をしている監査法人出身者は、事業会社に転職する際にどれだけリモート勤務できるかを気にする方が多い印象です。一方で、リモートワークだからこそ、以前よりも一層、コミュニケーションスキルが重要になってきている感覚がありますね。
-織茂 転職希望者とエージェントのやり取りもリモートですか。
-玉虫 以前は100%対面でしたが、いまはほとんどウェブ面談です。時間もフレキシブルにできるし場所も問いませんから、転職活動はやりやすくなったと思います。対面の頃は、定時以降の19時頃に会っていましたが、いまは日中にどんどんウェブ面談が入りますから我々もやりやすい。我々との面談だけでなく、一次面接もウェブ面接が多いので求職者の効率がとてもいいと思います。
-織茂 最終面接は対面ですか。
-玉虫 そうですね。一次は応募の心理的ハードルを下げる意味もあるのかウェブが多く、二次や最終は直接会うケースが多いですね。
転職活動のいま~最近の事例から
-織茂 最近、印象に残る転職事例を教えてください。
-中津留 大手の事業会社に転職した会計士の方がいらっしゃいます。監査法人で会計監査を五年ほど経験した方で、当初は監査法人でパートナーまで目指そうと思っていたそうですが、監査を経験する中で「第三者的な視点ではなく、主体者としてビジネスに携わっていきたい」という思いが芽生えたところで、ご相談いただきました。 会計士の方が転職を考える際、ポイントの一つが年収面です。とくに大手企業は年功序列の傾向がまだまだ強いので、年齢と年収とのバランスが合致しないケースがままあります。その辺りを、どうお話していくかは私も面談を通じて気にしていたところではありました。 この方の目標は、よりグローバルにということで海外駐在のチャンスがあるというところと、会計士=連結決算・開示といったいわゆる制度会計のイメージが強いのですが、その方のキャリアパスとしてはそれを経験したのちに、より事業に踏み込んだ管理会計の領域で企業に貢献していきたいというお考えも持っていたので、短期的な年収よりも長期的な機会の獲得を重視して、お話しさせていただきました。 企業側も会計のプロフェショナルを探しており、会計士への期待値も制度会計だけではなく、強みを活かして事業に貢献してもらいたいという思いも一致して、とんとん拍子で、一次面接から最終面接まで全てオンラインで一カ月という短期間であっという間に採用が決まりました。お互いが抱いているキャリア像も一致していたので、相思相愛でご縁があったと思いました。 一方で年収面で言えば、コンサルティングファームや監査法人関連ではもっと高くご提示いただける企業もあったと思いますが、長期的なキャリアゴールを見通してご判断いただけたと思います。
-織茂 最初は会計士の強みを活かして制度会計を中心に携わるが、その後のキャリアは事業会社の動きを数字面で支える。管理会計部分に目線を合わせてキャリアアップしていくという事例ですね。 連結会計担当者が退職して、急遽連結会計人材を探すという求人が中にはあると思います。そこで、うまく出会って採用された場合、今後のキャリアは悩まれるところでしょうか。
-中津留 全員に当てはまるケースではないと思いますが、事業会社への転職を考えている会計士の中で、ずっと連結決算や開示業務に留まりたいと考えている人はほとんどいないと思います。それが強みではありますが、その強みをステップにして、より経営に近い仕事をしたい、CFOというキャリアゴールに向けて財務やM&A関連の仕事をしたい、というビジョンを持つ会計士が多いという印象です。
-織茂 玉虫さんはいかがですか。
-玉虫 特定の事例ではありませんが、私は東京で働いていますし求人企業も東京が圧倒的に多かったのですが、直近の支援している方々を見直してみると、東北内や関西圏内での転職や、信州から東京への転職といった地方の方の転職支援の割合が増えており、自分でも驚きました。それほど違和感なくやっていたということです。 以前はコミュニケーションの量や質が高いほうがよいと思って、メールよりは電話、電話よりも対面を重視していました。そこにウェブが入ってきた。私の中ではウェブは対面と遜色ないコミュニケーションが取れています。以前であれば、地方在住の方は電話相談から始まってメールと電話対応でしたが、いまはどこに住んでいてもウェブ面談です。ウェブ面談が増えてコミュニケーションの質と量が上がり、転職サポートの質も向上しているように思います。
-織茂 物理的な距離がリモートで縮まって、全国どこにいても求職求人活動が可能になってきているのですね。
-玉虫 直接、会うこととの違いを感じることはそれほどありません。
-織茂 コミュニケーションの頻度もありますよね。フィジカルに移動して会うのも臨場感があってよいですが、いままではコミュニケーションの回数が限定されていたのが、ウェブによるリモートで頻繁にコミュニケーションできるようになりました。
-玉虫 まさにそうですね。
ライト化する転職活動、多様化する価値観
-織茂 いろいろな会計士の転職サポートをされる中で、感じられる最近の転職希望者の考え方について教えてください。
-中津留 同じ人が一人としていないくらい、皆さん考え方はさまざまです。会計士だからとパターン化するのは、難しいように思います。 傾向としては、監査法人にいる若手からマネジャーレベルの方も含めて、現職でのキャリアの行き詰まり感や働き方の見直しを考える中で、次のステップとして転職を考える人が増えているという印象はもっています。
-玉虫 転職活動がライトになってきていますよね。
-織茂 一念発起しての転職ではなくなってきているということですか。
-玉虫 最近「選考ではありません」という立て付けのカジュアル面談が増えています。応募者は、OB・OG訪問のような感覚で気軽に話が聞ける。募集側にとっては、応募してもらうために心理的ハードルを下げるという意味合いもありますね。
-織茂 確かに最近、カジュアル面談が増えてきていますね。カジュアル面談では、企業側はどんな話をすればいいのでしょうか。
-玉虫 私がよくお伝えしているのは一対一の会社説明会のような感じです。面接に行くには、志望動機をつくり込まなければならないとかハードルがありますが、そうしたものなしでいけるよというエントリー者向けの話です。面談対応者は何を話していいか、わからないかもしれませんね。
-織茂 何を聞いていいのか、堅苦しくしゃべってはダメなのかなとか、通常の採用面接とどう違うのか。一対一の会社説明会っていいですよね。そんなイメージですかね。
-玉虫 面接となると、事前に応募先の会社を調べなければならない。丸腰で行くと、この人は準備不足と思われる。
-織茂 なにも準備しなくていい?
-玉虫 お互いに丸腰でいいんじゃないですかね。会社内容の説明から、仕事内容の説明などをお話しする。ただし、選考の目がゼロではありません。応募した側も面談者も。
-中津留 私も大手コンサルティングファームでカジュアル面談のアレンジをして、双方をフォローする形で同席させていただく機会が最近も何件かありました。 企業側にとっては会社説明を行って自社を知ってもらうという立て付けではありますが、自社に関心をもってもらうための機会でもあります。求職者が重きをおいているところ、大事にしているところを、しっかりヒアリングできればよいのではないかと思います。採用、不採用ではなく、求職者が何を求めているかを把握する場がカジュアル面談ではないかと思います。 求職者にとっては「求人票」という文字だけの情報では知り得ないところに気付くことで、その会社が自分に合っているかどうかを確認する場でもあります。 求職者がたくさんしゃべるのがよいカジュアル面談だと個人的には思っています。会社説明だけで終わってしまうのではなく、「求職者がどういう思いで転職を考えているのか」は聞いてもいいと思いますし、「どういう働き方をしたいか」、「どんな仕事をやりたいか」、「キャリアをどう考えているか」という話が聞ければ、その方に合わせて「弊社ではこんなキャリアパスやプロジェクトがあります」といった話もできると思います。
専門エージェントから会計士へのアドバイス
-織茂 面接等にあたって、会計士にどんなアドバイスをしますか。
-玉虫 私は今の会社に入る前は、一般事業会社向けに管理部門系の職種の方々をご紹介していました。経理財務、人事、総務、法務、経営企画といったさまざまな職種の人たちがいましたが、当時と比較すると会計士の方々はアドバイスの必要性をさほど感じません。 面接のセッティングをしたあと、「こういう質問されます」「最低限、こうした準備をしてください」というアドバイスは差し上げますが、完璧に準備して臨まれる方ばかりです。真面目で優秀な方が多いのかな、と思います。 加えて、転職市場は転職者の売り手市場なので、内定がもらいやすい環境にあります。多少の失敗くらいでは落とされないという現状も、あまりアドバイスしなくていい背景にあるのかもしれません。
-中津留 監査法人系列やコンサルティングファームの場合は、会計士の方の監査経験やスキルを面接官自身もよく理解されているので、職務経歴書の細かい内容まであまり気にされません。 一方で、事業会社の場合は、面接をする方も書類選考する方も、会計士の方や監査の仕事を細かく理解している人ばかりではありませんから、職務経歴書の書き方などはアドバイスさせていただきます。細かな業務内容をたくさん記載しても読み手が理解できなければ意味がありません。事業会社にとっては、そうした経験が具体的に自社にどう活かされるのかが知りたいところですから、準備段階で書類のそうした点を添削させていただいています。 面接も事業会社では、監査の経験をかみ砕いて話さなければ通じません。経理部長であれば理解できるかもしれませんが、人事の方や役員の方などは監査業務に明るい方ばかりではありませんから、その辺りを、どううまく伝えるかを配慮するよう、お話ししています。 また、強みを示すエピソードもご用意いただくようお願いしています。
高まる人材の流動性とプロフェショナル採用ニーズ
-織茂 今後の転職市場についてのお考えをお聞かせください。
-中津留 私がご支援させていただいている大手企業とコンサルティングファームに関して言えば、コンサル業界はビジネスも伸びているので、今後も活況が続くと思います。 求職者の側から言えば、一社に骨をうずめてパートナーを目指そうとする方よりも、先々に自分なりのキャリアゴールを持っている方が多いので、人材の流動性はさらに高まる印象はあります。 一方で事業会社では人手不足もあり、経理周りの人材不足や教育の難しさをよく相談で伺います。リモートや、DXというトレンドもあり、シェアードサービス(BPO)の話も伺うようになってきました。経理に携わる人員は将来的にはもっとコンパクトになっていく感じがしています。 そうした状況の中で、「よりプロフェショナルを採用したい」という企業が今後も増え、会計士を採用する企業もより増えていくだろうと思います。
-織茂 私は上場会社の経理を支援する仕事をしていますが、連結決算周りの教育に苦労している会社が多いと実感しています。ベテランの方が懸命にワークして回しているけれども、20代の若手にノウハウを伝授できない。日々の業務に追われて暇がない。教育に関しては悩まれるところだと感じています。 一方で会計士の場合は、独立という道もあります。コロナ禍以降、少し独立を控えているように思えますが、玉虫さんどうでしょうか。
-玉虫 私はそれほど影響しているという感覚はありません。私の担当領域では、将来の独立を見据えて幅広くやりたいという方は一定数いるように思います。
-織茂 仕事はありますからね。監査法人を退職して、そのまま独立するのも一つの選択肢であろうと思います。 ありがとうございました。次回はQ&Aセッションをお届けします。