脇 一郎Ichiro Waki
JBAグループCEO
1993 年早稲田大学商学部卒業、中央監査法人国際部入所。欧州系外資系企業ファイナンシャルコントローラー、米系外資系企業(NASDAQ 上場)ビジネスアナリスト、外資系ソフトウェア会社代表取締等を経て、06 年ジャパン・ビジネス・アシュアランス株式会社にマネージングディレクターとして参画。内部統制関連・IFRS 対応コンサルティング、経営管理体制構築支援などを担当。16 年JBA グループ代表に就任。公認会計士、早稲田大学会計大学院非常勤講師。
経理財務の プロセスが変わる
―AIの可能性と、経理財務に及ぼす影響は?
AIの技術は多様ですが、パターン化できるものは、ほぼAIによりシステム化できると思っています。経理系の仕事は監査も含めて、その多くがパターン化できる可能性が高い。それに伴って、経理の仕事のプロセスが大きく変わる。つまり、AIが経理の専売特許である仕訳・記帳といった簿記の技術を習得し、その企業特有の仕訳を学習することができれば、人が仕訳を起こす作業はほぼなくなるであろうということです。
例えば、経費精算や支払請求書のフローにAIが入ったシステムを使えば、スキャニングした領収書や請求書を読んで、データ化します。スキャンニングの様々なパターンもAIを用いて仕訳データ化することができ、その精度も著しく向上しています。また、最近の新興系クラウド会計ソフトウェアは、銀行データから仕訳を自動的に作成する仕組みを開発しており、様々な仕訳パターンをAIで学習させ自動化しています。
このようにAIを使ったシステムはすでに世の中に存在していて、飛躍的なスピードで日常に入ってきています。まずはそれを我々は認識しなければなりません。
―経理財務の在り方が大きく変わりそうですね。
すでに変わりつつあります。会社に経理部門がどう貢献するか、経理パーソンとして会社の業績にどう役立てるか。それがますます問われるようになるでしょう。
従来、経理のメイン業務であった財務会計や税務会計といった法律や規則に則った処理は、ある程度システム化できる。そうなれば、経理財務部門は法対応の制度会計に力点を置くのではなく、管理会計(マネジメント・アカウンティング)にいっそうシフトしていく必要があります。会社の業績にプラスのインパクトをどう与えられるか。事業損益を計算して事業部門のアクションを支えるなど、経理財務は事業部門のそばに在ることが求められると思います。
―財務や税務の専門性は将来の経理財務にとっては重きがなくなる?
知識が不要になるわけではありませんが、それだけでは会社は評価しなくなるであろう、ということです。自社の社員として財務会計や税務に精通するよりも、経営管理を通じてビジネスに貢献してほしいというニーズは確実に高まっています。人材の集中と選択を考えれば、会計の専門性よりもビジネスに精通していることが優先される可能性は高い。次世代のCFOを目指すなら、ビジネスに貢献するマネジメント・アカウンティングを極めることが不可欠です。
逆に言えば、税務や会計のテクニカルを極めたいなら、会計事務所や監査法人を目指すという道もあります。スペシャリスト集団では当然、専門性が評価されますし、事業会社は専門知識が必要な仕事はますますアウトソーシングする傾向にありますから。キャリアの道が異なる、ということです。
経理財務部門はビジネスのそばに在れ
―マネジメント・アカウンティングで重要なことは?
会計の論理的な構造の理解が非常に重要になります。マネジメント・アカウンティングは、ビジネスで起こっていることを数字であらわす「画家」のようなものです。将来この数字を達成するには、どういうアクションが必要かまで描き出します。そこでは、ビジネスアクションと数字表現が表裏一体になるような論理性が求められます。財務会計のルールを超えたビジネス的な論理性をもって、会社の価値や損益の流れを考える。会計的な知識と自社ビジネスの価値創造リンクが、極めて重要になることは間違いありません。
―会社の人材政策にも変化が出てきそうですね。
優秀な人材であればあるほど、「仕訳を切っている場合ではない。グループの経営管理にまわり業績に貢献せよ」となります。一方で、専門性の高い人材の流動性は確実に高まっています。AIが入ってくれば、いっそう拍車がかかるでしょう。これまで企業は社内で丹念に会計人材を育てていく環境をつくっていましたが、それが仇となっていく可能性は高い。研修コストを回収できないことを企業も学んでくると思います。
システムへの感応度と変化に対する許容性を高める
―次世代を担う経理財務パーソンにアドバイスをお願いします。
自分は何で貢献できるかを、これまで以上に考える必要があります。企業のビジネスに貢献したいのか、レギュレーション(法律、基準)対応の専門家になりたいのか――幅広いキャリアの道があります。自分が貢献できる道を考え、切り開く。多種多様なキャリアが認められる時代だからこそ、チャレンジのしがいがあると思います。
さらに、AIに代表されるようなシステムへの感応度の高さは、ますます重要になってきます。「今、ITで何ができるのか」のアンテナを常に敏感にしておく。実務的にも仕訳のテクニックだけでなく、表計算ソフトやデータベースソフト、さらには経理のアプリケーションソフトを存分に「使いこなす」スキルが求められます。システムを「使いこなす」技術やアイデアがないと、機能の一部しか使えない。残念なことに、多くの組織がそうした状況にあります。「何がしたいか」を考え、「できるはず」と思う。それがシステムを「使いこなす」第一歩です。
マネジャークラスの中核を担う人も、従来と異なる視点を持つことが必要になると思います。ITには無限の可能性があるという前提のもと、業務・人材・組織の在り方を考えていただきたい。柔軟性をもった変化の許容を、考えていかなければならないと思います。
―本日はありがとうございました。