松下田佳子氏Takako Matsushita
川上塗料株式会社取締役 経理部長 兼 総務部長
1966年生まれ、大阪府出身。1989年関西学院大学経済学部卒業。同年松下電器産業株式会社(現パナソニック㈱)入社。本社情報システムセンターにSE として配属。1994年同社退社。97年センチュリー監査法人(現新日本有限責任監査法人)入所。99年情報処理技術者試験システム監査技術者合格、2001年公認会計士登録。10年監査法人退所。12年川上塗料株式会社取締役経理部長、13年同社取締役経理部長兼総務部長、現在に至る。
経験を無駄にせず思いを貫く
―ご経歴を教えてください。
平成元年、新卒で松下電器産業(現パナソニック)にシステムエンジニア枠で入社しました。男女雇用機会均等法の施行から3年。女性への就職の門戸が開かれ始めたころでしたが、女性採用は総合職・一般職に分かれていた時代にあって、男女同一条件の専門職扱いになる枠でした。
「専門家になりたい」という発想でシステム部門に入りましたが、結果的に5年で退職し、公認会計士試験を目指しました。大企業を辞めて別の専門家の道を選ぶのだから、難関と言われる資格を取ろうと考えたのです。退職して専門学校に通いながら公認会計士の勉強を始め、合格後、センチュリー監査法人(当時)に入所しました。
転職組の私は年齢的に有利ではありませんでしたが、 その前職が評価され、松下電器の監査を担当していた部署に採用されました。入所後、松下電器をはじめ製造業中心に監査を担当しながら、前職を活かすべくシステム監査技術者の資格を取りました。当時、この資格の保有者は少なく、自部署の監査担当会社だけでなく、他部署のさまざまな会社のシステム監査に携わるなど貴重な経験を積むことができました。「人生に無駄な経験はない」との思いは、その後もつねに私の中にありました。
会計士の時に監査に来ていた川上塗料から「取締役経理部長に」というお話をいただき就任したのは2012年、45歳のときでした。当時、私は闘病中の母親が亡くなり、父親の世話と二人の子どもの育児などが重なって休職中でした。「自分につとまるのか」と不安もありましたが、やらないで後悔したくないと意を決して入社しました。
視点が違うから見えることがある
―お仕事のやりがいは?
プロパーばかりの中に入って、用語や業界の常識など「わかっていない」と思われた部分もあるかもしれません。しかし、異なる視点だからこそ見えるものがあります。慣れ切った感覚を変えなければ成長の限界だと感じました。誰かが言わないと気づかないけれど、新しいことには抵抗がある。これまでと同じではだめだと思って、手を打ったことに反応があったり、成果が見えたりすると、この仕事をやっていてよかったという気持ちになりますね。目指していたのは「ちょっと変わり者がやってきて、相手をするうちに、なんだか良くなっていく」という姿です(笑)。他部署の人からは「経理はいつも厳しいことを言ってくる」となりがちですが、それが経理の役割ですから。
これからももっと改善を進めていきたい。でも、会社を利益体質に改善しようとしても、経理だけではだめだし、まして私一人では何もできません。営業・生産・技術にわたる各部署の一人ひとりがどうすればいいか考えて自主的に動かなければ達成できない。私の役目はそうなるよう刺激を与えることだと思っています。
直属の部署(経理・総務)では、スタッフ一人ひとりと会話する時間が欲しいと感じ、年2回、人事評価の時期に合わせて話す場を設けました。契約社員も派遣社員も含めて全員です。まず話を聞くことでこちらは気づきをもらえるし、対話することで私がどうしたいか理解してもらえる気がします。「その仕事は何のために必要か考えてやり方を決めてください」という一言で、伸びる人はグンと伸びる。そうした変化もとてもうれしく感じます。
木と森の両方を見る
―これから求められる経理財務の人材像は?
経理財務は基本的には個人プレーではなく、集団で一つのものをつくる部署だと思っています。そのために毎日、みんなが様々なことを少しずつ行っています。そう考えたとき、いろいろな条件が必要だと感じています。
最初は、とにかく正確であって欲しい。これは経理の基本中の基本です。年次が上がってきたら、自分のやっている仕事が全体の営みの中の一つであり、もっと大きなものを生み出していることを知って欲しい。「木を見て森を見ず」ではなく、木と森の両方を見る。そうした中で、自分のベースとなる考え方をもって欲しいと思います。会社の事象を数字に反映させるのが経理の仕事です。この事象は会計基準をベースに考えると処理はこうなるはず、決算書での数字はこうなるはずというように、まずはよりどころとなる軸を持ってもらいたい。そうするとどんなケースにも対応できると思います。
選んだ道の良い面を見る
―読者にメッセージをお願いします。
やはりベースは信念だと思います。例えば女性が仕事を続ける中では、いろいろなことが起こります。辞めて家庭に入る道を選ぶも良し、でも、仕事を続けることを選ぶなら信念を持って続ける。結婚や出産それに昇進など岐路での選択のとき、いつも意識しているのは、どちらを選んでも物事には良い面と悪い面がセットであるということです。その道を選んだ以上は、良い面を見て、良かったと思いたい。悪い面の辛さは良い面の良さのための踏み台と思えばいいと思います。
物事の本質を見失わないように、信念をもって、数字にも仕事にも人生にも向き合っていただければと思います。
―本日はありがとうございました。