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2018 Spring

この記事は2018年5月発行の「JBA JOURNAL」に掲載されたものです。内容及びプロフィール等は掲載当時の情報となります。

企業理念の
実現をサポートできる
力となるために。

渡辺真也氏

渡辺真也氏Shinya Watanabe

エーザイ株式会社
経理部長

1972年生まれ、東京都出身。1995年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。同年エーザイ株式会社入社、三重医薬部配属。2002年経理部、11 年経営戦略部、15年コーポレートプランニング&ストラテジー部連結管理グループ長、16年経理部副部長を経て、同年6月、財務・経理本部経理部長(現任)。

経理は現場を知ってから

―ご経歴を教えてください。

入社後、7年間はMRとして病院、クリニック、薬局を訪問し、医薬品情報を提供していました。30歳を迎える年、そろそろ異動のタイミングだったので経理部を希望しました。MRから経理というと驚かれることもありますが、エーザイの経理部門ではごく普通のことです。営業、工場、研究所など他部門から異動してきた人がほとんどで、むしろ経理一筋のほうが珍しい。前任の経理部長も、MR出身でした。最近は専門性の高まりと共に中途採用も行っておりますが、「経理にはまずは現場を知ってから」という伝統が残っています。
営業、経理、経営企画と経験する中で、システム導入、M&A、製品買収、中期計画策定など様々な案件に携わることができました。振り返ってみると、MRとしての経験や海外子会社との連携等を通じて、現場を知り、自社ビジネスの実態を理解していたことが、結果として、適切な会計処理を行うことに大きく役立っていると感じています。

―経理部をまとめていく思いは?

経理の仕事はチームで動く仕事で、そこに面白さがあります。せっかく一緒のチームになったのですから、指揮するというよりも、メンバーと一緒に苦労、時間を共有したいという思いが強くあります。経理部の中で私は年齢的に中ほどですし、経理知識なら私よりも詳しい人がたくさんいますから、一緒に時間を過ごし、考え、共に正しい方向に動くようにしています。

―いちばんの課題は?

課題はやはり人材の育成です。エーザイでは、経費精算のチェックや一部の決算業務をシェアードサービス子会社へ委託しており、新たに経理部へ配属された者は、数年間そこに出向して、一連の経理基本業務を身につけて戻ってくるという試みを行っています。ただし、目指してほしいのは単に財務諸表をまとめることではありません。新たな取引について、関連する会計基準を学び、その会計処理を監査法人との議論を通じて「会計基準の本当の意味」を考える。また、「株主、投資家はどういう視点で当社の財務諸表を見ているのか」を考えながら外部開示資料を作成する。そして、「経営トップが財務諸表を通じて、何が知りたいか」「経営の観点から改善すべき点はないか」を意識しながら決算を取りまとめる。そういったことができる人材を育てるには、「シェアードサービス子会社で定型業務を行うだけで本当にいいのか?」という思いもあり、出向しつつも、早めにエーザイのビジネスやステークホルダーズのニーズを意識する機会を提供するようにしています。

―ワークライフバランスの実現という社会全体の動きもあります。

特に繁忙期における組織メンバーのワークライフバランスについては、マネジメントとして真剣に取り組まなければならない課題だと思っています。例えば決算業務では、フローを点検して、ボトルネックを探し、一つずつ潰すことによりプロセス改善による効率化を継続しています。また繁忙期には、毎朝ミーティングで一日の行動計画と業務終了予定を確認し、効率性、生産性を意識する試みも行っています。経理部の忙しさもかつてに比べれば緩和しましたが、まだまだ改善しなければならないところは多いと思っています。

―効率化の成果は?

かつて17営業日かかっていた連結精算表の作成は、10営業日程度まで短縮してきました。一定の効率化は進んでいますが、問題は数値を取りまとめて、そこから何をするかです。正確な決算を行うために数値の検証・チェックに十分な時間を費やさなければなりませんし、加えて財務数値の分析を深めていくことで、会社の実態を正確に把握し、また改善すべき課題はないのかを考えることが重要だと私は思っています。効率化と同時に、そこにはこだわっていきたいです。

―分析を深めるには?

数値を見て「なんで? なんで?」と考えるのが当社の伝統です。例えば、「なんでこの国の人件費が増加しているの?」「人員増? 給与単価の上昇?特殊要因?」と詰めていく。一つひとつの疑問や違和感を自分が納得するまで検証します。これには相応の時間と組織メンバーの自覚が必要となりますが、経営陣や事業部と共有すべき経営課題は、そうした地道な分析で発見できると考えています。管理会計的な要素もありますが、経理部としても一歩踏み込み、企業価値の向上に貢献していきたいと考えています。

「会計で何をするのか」という思いを持ち続ける

―あるべき経理の人材像は?

もちろん会計知識や語学力は必要になりますが、日々の作業に流されず、「会計を通じて何をするか」という思いを持ち続けてもらいたい。エーザイは、企業理念である「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」実現を目指しています。エーザイで働く人は皆、「患者様のために」集まっているのだから、経理部員も「患者様のために何ができるか」を考えなければなりません。例えば、研究開発投資を加速し、新薬を早く患者様に届けるために「コスト削減」や「資産の流動化」などの財務面からできる工夫を考え抜くことで、経理は「患者様のために」をサポートする力になれると信じています。それができる人材を目指してもらいたいと思います。

―理想の経理部の姿とは?

一人ひとりが、会社の現状と今後の目指す方向性を理解した上で、経理業務を行う。そうした人材の集団になることが理想だと思います。正しい決算、適時・適切な情報開示、適正納税の実現をベースとし、更に一歩を踏み出して、各部門、事業部のビジネスパートナーになって欲しい。そのためにも普段から会社の目指す方向性に関心を持ち、また、現場に足を運んで、気軽に話が聞ける関係性をつくっておいてもらいたい。現場で起こっていることをつねに把握しておくことが、より深い財務分析につながり、ビジネスパートナーへの道を拓くのだと思います。

―本日はありがとうございました。