相原寛史氏Hirofumi Aihara
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループデジタル企画部 部長
1990 年3 月大阪大学工学部卒業。同年4 月株式会社三菱銀行(現㈱三菱UFJ 銀行)入行、93 年4月証券企画部調査役、99 年2 月企画部調査役、08 年システム部米州システム室上席調査役、12 年システム部システム企画室次長、システム部アジアシステム室長、17 年デジタルイノベーション推進部長、デジタル企画部長等を経て、18 年6 月よりシニアフェローデジタル企画部部長(特命担当)。
デジタル技術でビジネスのやり方を変革する
―デジタルトランスフォーメーションとは?
デジタルトランスフォーメーションを一言で説明するなら、「ICT等の技術を使って会社の事業、ビジネスモデル、オペレーションのやり方を画期的に変革すること」です。銀行の多様な業務の一つに、店頭でお客様との接点になる仕事があります。紙への記入をデジタルに変えることで、オンラインバンキングによる様々なサービス提供が可能になりました。今後はご来店いただいたときも、例えばタブレットに記入していただいたものが即データになれば、お客様にはお待ちいただく時間が減り、社員は事務作業から解放され、お客様との会話を増やすことができます。デジタルを使うことで、業務のやり方を変え、サービスのありようを変えて顧客体験を大きく変えていく。こうした既存のビジネスモデルの改良が弊社のデジタルトランスフォーメーションの大きな狙いの一つです。
一方で、新しい技術を使って、新しい事業モデルづくりも併せてチャレンジしています。例えば、住宅を購入しようと思ってネットで検索するとき、先に自分が借入れできる金額の目途が立てば、住宅の検討がしやすくなります。AIを使えば15分で事前審査の結果がでます。リクルートと提携して、スーモのサイトから弊社のサービスに入っていただける仕組みが動き始めています。
―今まで銀行は提携などにも慎重なイメージでした。
お客様は必ずしも金融だけのサービスで何かをされたいわけではありませんから、事業会社との連携等によって、お客様の生活がより便利になることを追求していきたいと思っています。セキュリティを確保した上でシステム連携できるAPI(ApplicationProgramming Interface)を活用して、例えば、クラウド会計システムのフリーと提携して法人のお客様の請求書の消し込みを自動的にやっていただくとか、給料のお振込みを弊社のバンキングシステムとデータを自動連携できるサービスを開始しています。
今まで銀行はお客様の大事な金融に関わる情報を長い年月をかけて守ってきました。お客様のお金にまつわる大事な情報を外に漏らさないという信頼を蓄積してきています。そこはAPI連携の中でも最重要事項の一つとして取り組んでいます。
―御社のデジタルトランスフォーメーションの課題は?
ITの時代は昔からの伝統的なやり方でシステムをつくってきました。今後、スピーディーに安全、確実なサービスを提供していくため、人材の拡充やプロセスの見直しに現在チャレンジしているところです。新規事業開拓も金融機関に対する規制のある中で、お客様によりよいサービスを提供すべくさまざまな事業者と協業してイノベーションを起こしていくために、多様なチャレンジが必要だと思っています。
そのために、自分たちのやり方を変えていくようなカルチャーを生み出す研修も実施していますし、外部のスキルをもった人材の中途採用も行っています。加えて、もう少し尖ったサービスを生み出すために、社内組織だった「イノベーションラボ」を子会社化することで、エンジニアなど多様な人材が入社してくれており、面白いサービスの誕生を期待しています。
もう一つ、アライアンスという観点で、スタートアップ企業の事業づくりをお手伝いする「デジタルアクセラレータプログラム」を実施しています。提携できる会社があれば一緒にサービスをつくって提供することで、我々だけでは足りない発想や技術を補っています。例えば、AIの企業と一緒に、じぶん銀行ではAIが為替相場を予測してドル預金の積み立てを自動的に行うといったサービスを提供したり、カブドットコム証券では公開企業の決算書をAIが読んで、これまで証券アナリストがつくっていたような決算分析レポートを自動的に作成するといったサービスを始めています。
イコール・リスペクトがコミュニケーションの基盤
―これからの銀行の役割は?
私見ですが、変わるところと変わらないところがあると思っています。お客様によりよいサービスを銀行品質でお届けするという本質は変わらない。安心・安全を担保し、お客様の大切なものをお守りするのが私どもの重要な使命です。金融のプロフェショナルとして、お客様のご相談にのる、大きな金額の資金を提供するといった役割は変わらないけれども、やり方としてはもっと離れた場所でも例えば3D画像の技術を使って社員がお宅にイメージとしてお邪魔してサービスが提供できるようになるかもしれません。金融取引についても、サービスへのアクセスも操作もさらに簡単になっていくと思います。
―求められる人材像は?
お客様の立場に立って提案できる力、AIを教育できる高度な業務知識や専門性を磨いていく人材がますます重要になってくると思います。コミュニケーション力は必須です。システムをつくるとき、使う側とつくる側が一緒になってよりよいものをつくりあげる「アジャイル開発」が行われます。システムのメンバーとビジネスのメンバーが一緒になって仕事をするとき、もっとも必要なのは「イコール・リスペクト」です。領域が異なれば、考え方も使う言葉も違います。お互いに理解が深まるような言葉の使い方のスキルも上げていかなければなりません。これは、私が仕事をするうえで大事にしてきたことでもあります。
デジタルの時代になっても、本質的に人が大切にしなければならないものは変わりません。どれほど技術が進歩しようと、大事なのはお客様や従業員の利便性を高めること。AIやブロックチェーンは、そのための手段の一つです。目的に合わせて、既存技術も含めた最適なテクノロジーをいかに選択するか。その見極めがますます重要になってくると思います。
―本日はありがとうございました。